創作リレー小説 第三弾

題字制作 すぎたまさん

ラーメンうまかったすね。青木さん」
「ああ、ここのはずいぶんさっぱりしているよな。大盛り食っても、あまりこたえねーよなケースケ」
「そうっすね」
 ケースケは、この前コメットさん☆といっしょに食べたラーメン屋を、セーバー仲間の青木さんと出ると、鎌倉駅のほうに向けて歩き出しました。
 季節は初夏、海開きももうすぐです。6月にしては、珍しく、蒸し暑く晴れた天気。やがて二人は御成通りを通って、駅前まで来ました。すると青木さんが言いました。
「じゃ、オレ、ちょっと大船に用事あるから。ここでな。またなケースケ」
「あれ?、そうすか?。じゃ、いってらっしゃい」
「ああ、またな」
 青木さんは、そそくさと鎌倉駅の中に入っていってしまいました。
「しょうがねぇな…。ヒマになっちまった…。ケーキでも持って、師匠のところにでも行くか…。ちびたち、喜ぶだろうからな…」
 ケースケは、財布を見ると、東口の菓子屋に行こうとしました。ところが…。
「おっ?、これなんだ?」
 ケースケは、東口に出て小町通りに入ったとたん、妙なポスターを見つけたのです。
「由比ヶ浜コスプレ鉄人レースぅ…?。こんな話知らないな…。なんだよこれ。…何々?藤沢・鎌倉鉄人レース大会委員会主催…?。コスプレをして遠泳、江ノ電乗車、マラソン、腕相撲をこなしてゴールすると、豪華賞品…。なんだよこれ、バカバカし…、…入賞者には、伊東温泉家族宿泊券、DVDレコーダーほか…か…」
 ケースケは、菓子店に入ると、チラシをもらいました。どうやら商店街には、チラシが、どの店にも配られているようです。
 
「それで、ケースケはこれに出ようってのか?。お前も面白いもの見つけてくるなぁ」
「師匠、別にオレが出ようってんでもないんですけど、たまたまチラシ配っていたんで…」
「そうか、じゃケースケは出ないのか。ママ、ぼく出ようかな?」
 景太朗パパさんは、ケースケの持ってきたケーキを食べながら、チラシを見て言いました。
「なあにそれ。パパそんな生き恥晒すの?。やめてよね」
「生き恥とはごあいさつだなぁ。まだまだ遠泳やマラソン、腕相撲なら、それなりに自信あるのになぁ。ぼくは出ますよ。ママは?」
「んもう、どうしても出るの?。パパは一度やるって言ったら聞かないんだから…」
「ケーキ、おいしいよ。ケースケ。…ところで、コスプレって何?」
 いっしょにケーキを食べていたコメットさん☆は、意外なことを口にします。
「ああ?、コスプレ知らないのか?。あれだよ、あれ…、えーと、その、なんつーか、消防士とか、駅員とか、そんな格好をまねて、それで…えーと」
「ケースケ何言っているのかわからない」
 コメットさん☆は、きょとんとして答えます。
「わっはっは。ケースケどうしたんだ?」
 パパさんが、意地悪そうに聞きます。
「し、師匠だって、わかって説明できるんすか?」
「え?、ぼくはちゃんと説明できるよ。えへん!。あー、コメットさん☆、いろいろな職業のユニフォームをまねた格好をして、…その、この場合は、遠泳とか、マラソンとかする…、そういうことだね」
「どうして、そんな格好でしなくちゃいけないんですか?」
「え!?、…そりゃ、まあそういう格好で、やらないハズのことをするのが、見て面白いから…かなぁ…」
「ほーら師匠だって、自信なくなってきた…」
「つまり、消防士の格好で、遠泳をするというのが、あり得ないから面白い…。そういうことでしょ?」
 沙也加ママさんが、横から助け船を出しました。
「…そうそう、そういうことだよ。コメットさん☆」
 パパさんはすぐにそれに乗ります。
「面白そう。私出ます!」
「…え…っ!?。こ、コメットさん☆、本気?」
 びっくりして聞き返すママさん。あっけにとられるケースケとパパさん。
「だって、面白そうですから…。あ、でも、何かあり得ない格好をしなくちゃいけないんですよね?」
「なんか、根本的に違うような…」
「ケースケ、何?」
「いや、何でもねぇ…」
「じゃ決まった。ウチからは、コメットさん☆とぼくが出るということで。家族旅行券狙うぞ〜」
景太朗パパさんは、うれしそうに言いました。何しろ同志が出来たのですから…。
「ま、待って下さい。オオオ、オレも出ます」
 ケースケがあわてて言いました。
「あれ?ケースケ、お前も出るのか?。さっき出ないって…」
「…だ、だって、言い出しっぺ…っいうか、持ちだしっぺは、オレじゃないすか…」
「別に無理しなくてもいいぞ」
「いや、海が関係するイベントっすよ。オレも出ないわけには…、行きません!」
「よーし、これで3人だな」
「ケースケ、いっしょにがんばろうね」
 ケースケは、ちょっと赤い顔で視線をそらしました。
 
「なるほど、遠泳と、江ノ電乗車、マラソンに腕相撲か…」
 出場を考えている人は、ほかにもいるようです。藤沢市でも、一人の少年がチラシを手にしていました。
「これって、江ノ電の時刻がカギじゃないか…。12分に1回しか走らない江ノ電に乗るとしたら、その前の遠泳は、飛ばしても意味がない…。つまりこれは、コスプレの評価っていうことだよな」
「そうですね、殿下…」
「よし。がんばるぞ」
「…あのう、殿下、失礼ですけど、泳げます?」
「泳げ……ない…な。…ど、どうしよう」
「やっぱり…。もしかして、お忘れかと思いまして…。私が星力でなんとかいたしましょうか?」
「いや、それじゃ、卑怯者じゃないか。…でも、…どうしよう、ミラ」
「そのイベントまでに、泳げるようになりましょう!。それしかないです、殿下」
「そのようだな…。がんばるか…」
 大会は、7月の下旬です。この話し相手の女の子を「ミラ」と呼ぶ少年は、泳げるようになれるのでしょうか?。

・・それから数日。三人は大会出場登録を済ませて、来るべき大会に向けて特訓の真っ最中のようです。
「はぁ、はぁ…。 ふ〜…、やっぱ年の差か…。暑さと疲れでめまいが…。ううッ」
「大丈夫ですか、景太朗パパ?」
「…師匠〜、そんなんじゃこの大会で勝ち残れないっスよ。なにしろ江ノ島から2キロ泳いで、電車に乗って鎌倉駅で降りたあと、由比ヶ浜まで走って、その後に腕相撲5人抜きなんスから。」
「うぅむ、それはきついな…。無理かもしれない…。」
 それを聞いた景太朗パパはそれですこしへばってしまいました。
「ねぇ、ケースケ。それ、わたしも2キロも走るの?無理だよそんなの。」
「…あぁ。それなら大丈夫だろ。確か女性は少し軽減されるって書いてあったから。確か、2キロ泳ぐのが1.5キロになって、電車で降りるのが鎌倉の一つ前の和田塚駅だろ。で、最後の腕相撲も三人に勝てばゴール。ってことになってる。」
「ふぅん。それでもやっぱりつらそう〜。」
「だからこうやって特訓してるんだろ?…別に勝ちたくなきゃやめてもいいけどよー。」
「むぅ…、わたしだってやるもん!」
 ちょっと気にさわる言い方をされたので、コメットさんはムッときました。 それから1kmぐらい走った後、大きな木陰を見つけた景太朗パパは足を止め、二人に休憩を促しました。

「よーし、とりあえず今はここまで、ちょっと休もう。ハァ…、ハァ…。」
「え?もう終わりっスか?まだオレは全然平気なんですけど。」
「わたしだって全然大丈夫ですけど。どーしてですか?」
「…若いっていいなぁ。あ、いや…、そろそろお昼の時間だからさ。いったん家に帰ろう。特訓はそれからでもいいじゃないか?」
「はぁ(…あぁ、そーいやもうそんな時間か。)」
「そういえばおなかも減ってきたし、そうですね、帰りましょうか。」
「そうしよう、そうしよう(ふぅ…、これでようやく休める…。これ以上付き合えそうにない…)。あ、ケースケ。お前もウチでメシ食ってけよ。」
「え? お、オレはいいっスよ。」
「いいじゃんケースケ。…一緒に食べよっ。」
「う…。」
 コメットさんの何気ない一言で、ケースケの顔はどんどん赤くなっていきました。
「あ、じゃあせっかく…だから、な。」
「じゃ、早く行こっケースケ。」
「…あれ、師匠?どうしたんスか?」
「い、いや〜、慣れない筋肉を使ったせいか、ちょっと筋肉痛になっちゃって…。悪いけど先に二人で帰っててくれないか?」
「はい、分かりました。でも、大丈夫ですか?(やっぱ無理してたのか)」
「大丈夫。ちゃんと後で追いつくから…。」
 景太朗パパ提案で三人は休憩を取る事になり、筋肉痛で倒れた景太朗パパを残し、二人はいったん家に戻ることにしました。

「こーやって二人でこの辺の道を歩くの、始めてじゃない?ケースケ。」
「あ、あぁ。」
 いきなりのコメットさんの発言に、ケースケは少し戸惑いながら言いました。
考えてみると、確かにそうです。
「しっかしお前、ホントに出るのかよ?大会。」
「うん。だって面白そうだもん」
「…お前、この競技がいかに大変か、全然わかってねぇな〜。服着て泳ぐっていう事がどんなに大変か分からないのか?」
「…う〜ん、分かんない。」
「お前なぁ…」
 …と、ケースケとコメットさんが話しながら歩いていると、前方のわき道からも話し声が聞こえてきました。
「…さすがですね殿下!練習を始めて一週間で25mも泳げるようになるなんて!」
「あぁ。でも、その”殿下”はよしてくれよ。ここがどういう所か、お前にも分かるだろう、ミラ。」
「は、はい。すみません。でも、どうやってお呼びすれば…。」
「あ。そりゃそうだな。う〜ん…。」
 こちらはこちらで何かしらを論じ合いながら歩いていました。そして、当然のごとく…。
「…イテッ!」
「あたっ!」
「あたた…。」
「キャッ!」
 その二人とコメットさんとケースケはぶつかってしまいました。驚いて双方共に顔を見合わせます。
「…だ、誰だ?いててて…!」
「あ、ご、ごめんなさい!…メガネ、めがね…。」
「…!あ、あなたはミラさん!? そ、それに、その人は…。」
「あ、あったぁ。…えぇと、…あ!あなたは、コメットさま!」
「いつつ…、なんだよ、コメット、知り合いか?」
 ケースケが、おでこをなぜながら聞きます。
「あ、う…うん。ちょっとね」
「…こんなところで会うことになろうとは…。コメット久しぶりだな。君はこの近所に住んでいるのか?」
 少年が口を開きました。
「で、殿下…。お久しぶり…。殿下も、近くなんですか?」
 コメットさん☆は、ちょっと緊張して答えました。
「ああ、オレはこの山の向こう側、隣の町に今は住んでいる」
「…そ、そうですか」
「そっちの彼は?」
「…え、ええと、と、友達のケースケです」
「そうか。先ほどは失礼。ケースケくん、はじめまして。プラネットだ。よろしく」
「あ、ああ、よ、よろしく…」
 ケースケは、疑わしそうな目をしながら、プラネット王子から差し出された手を、握りました。
「ミラさんたちは、どこからの帰り?」
 コメットさん☆は、ミラさんの髪が少し濡れているような気がしたので、たずねました。
「はい。私たち、水泳の練習をしてきました」
「水泳?。どうして?」
「今度、江ノ島から由比ヶ浜で開かれる、鉄人レースに殿下がお出になります。それでちょっと練習を」
「え!?、ミラさん達もあれに出るの?。うわーい、仲間だー!」
「こ、コメットさま?、コメットさまもお出になるのですか?」
「うん。このケースケもだよ」
「お、おい、コメット、よけいなことしゃべるなよ…」
「どうして?」
「ど…、どうしてって…」
「なるほど。君たちも出るのか。じゃあまあ、お手柔らかに頼むよ」
 それを聞いていたプラネット王子は、静かに語りかけました。ところが、それを聞いたケースケは…。
「じ、冗談じゃねぇよ。お手柔らかに出来るわけないだろ?。勝負は勝負だ」
「ケースケ…。もう、ケースケったら」
「コメット、行こうぜ。負けられない相手の出現ってところだ」
「ケースケくん…だったか。まあそう敵対心を燃やさないでくれ。お互いがんばろう」
「…あ、ああ」
「じゃミラさん、またね。私これから家に帰るから」
「コメットさま、さようなら。またお目にかかりましょう」
 プラネット王子とミラ、ケースケとコメットさん☆は、別れてそれぞれ違う道を歩き出しました。ところがその時です。ケースケとコメットさん☆がプラネット王子たちから、50メートルも行ったでしょうか?。聞き覚えのある声が…。
「オーホホホホホ…。コメットったら、そんな体力バカなやり方じゃ、殿下には勝てなくってよ」
「め、メテオさん」
 メテオさんは、近くの立木の上から、ケースケとコメットさん☆の前に飛び降りました。
「た、体力バカって…、なんだよ。どうしてだよ」
「いいこと?。あなたたちあの鉄人レースに出るんでしょ?。あのコースをよく見てご覧なさいよ」
「なんだと…」
 ケースケは、くしゃくしゃになったチラシをポケットから取り出しました。
「江ノ島の片瀬東浜で男は2キロ、女は1.5キロの遠泳よね。そのあとなんて書いてある?」
「え…江ノ電に乗車して、男は鎌倉駅、女は和田塚駅…だろ?」
「そう。あなたたち何年江ノ電に乗っているのよ。江ノ電はそんなしょっちゅう走っているの?」
「何?」
「あ、もしかして、江ノ電が12分間隔ってことを言いたいの?メテオさん」
「…そう。江ノ電が12分に1回しかこないってことは、どんなに早く遠泳を終えたって、来た電車に乗るしかないってことよ」
「ど、どういうことだ?」
「まだわからないの?。だから体力バカって言うのよ」
「ケンカを売る前に、質問に答えろよ!」
「いい?。もし遠泳を一番に終えたとして、江ノ島の駅に走っていったら、電車が出たばかりだったとしたら…?」
「あ…!」
 ケースケは、ようやくこのからくりに気付いたようです。
「じ…、12分待たなきゃいけないってことか…」
「そう。そうすれば、その間に、どんどんあとの人が駅にやってきてしまう…。つまり、電車の時間にあわせて、遠泳を終えるタイミングを考えないと、ムダに体力を消耗するってことね〜」
「メテオさん、ありがとー」
「えっ!?」
「メテオさんのおかげで、ヒントもらっちゃった。行こうケースケ。計画立て直さないと」
「…う…、くそっ、やられたぜ…」
「体力バカはハゲるわよ〜。せいぜいがんばることね。カリカリ坊や」
「…お、お前は出ないのか?」
「私?私はそんな疲れることはしないわ。高見の見物をさせてもらうわよ。オーホホホホホ」

 家に帰ったコメットさん☆とケースケは、景太朗パパさん、沙也加ママさんといっしょに昼食をとりました。
「師匠、どこへ行っていたんですか?」
「ふふふー、実はな、江ノ電の江ノ島駅さ。時刻表をもらってきた」
「え?、師匠、もしかして、江ノ電が12分間隔というからくりに、師匠気付いていたんすか?」
「…まさか、ケースケ、気付いてなかったのか…?。なにしろムダに特訓されちゃ、ぼくも体持たないからね。なあコメットさん☆?」
「…は、はあ、そ…そうですね。あはっ、あははは…」
 ケースケの顔は、今度は違う理由で真っ赤になっていったのでした。

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