ヘルメットバトラー フルフェイスマン
ヘルメットバトラー フルフェイスマン 第四話”プライドってそんなに必要なものか?今一度良く考えてみよう”

「…お願い都吐露(トトロ)!力を貸して! 茜が…迷子になっちゃったの! あの子、寂しがりやだからきっとどこかで泣いてるわ! 私…もうどうしていいかわからないの!」 「…アレ、警察とかには電話したか?」 「おねがい、都吐露!!」 「あー、ダメダメ。ウチ今電話止められてるから」 「おねがい、都吐露!!」 「お前らアレよな、でも。困ったときだけ都吐露、都吐露って調子いいよな。 お前こないださァ、ウチにピンポンダッシュしてったろ。全部知ってんだぞ、オジサン。」 「黙れトトロ!…じゃなくてお願い都吐露!!(しまった…つい本音が)」
「あはははは…、やっぱいいねぇ、『となりの都吐露』。」  オレの名は柏木 雅浩(かしわぎ まさひろ)。多少腕っぷしには自信のある県立昆布学園二年生。 …前(参話参照)に学校で起こった大規模火災事件で色々無茶したせいで、今は近くの病院の大部屋に押し込められて(しかたなく)療養中。 本当はこんな消毒液や病人くさい所なんかさっさとおさらばしたいところなのだが、 全身に軽いヤケドで顔はボロボロ、さらにはあばらが2,3本折れちまっているらしく、 今は点滴の注射が腕に刺さったまんまでろくに動くことも出来やしない。 …まったく、ここにいると一日がとっても長く感じる。  ちなみに、オレ達の学校は大規模火災で校舎のほとんどが使えなくなったため、今は近くの”陸南台付属中学”で臨時に授業をやっているんだと。 そして、こんな場所に来る奴といえば…。 「ま・さ・ひ・ろー♪ ナナミちゃんがお見舞いに来ましたよーっ!!」 「よぉ雅浩!元気かぁー!またずいぶんと醜い顔になったなぁ!」 「はぁ…お前ら、また来たのか。 …好きで醜くなったわけじゃねぇっつーの!」  …こんなのばっかりだ。 「もう!せっかくお見舞いに来てあげたのに何そのイヤそうな態度! …あたしだっておこるよ!」 「そうだぜ雅浩、せっかく女の子が見舞いに来てるってのに。」 「へーへー…。『コイツ以外』の女の子なら少しはマシだっただろうけどな。」 「何よその言い方! ひどいッ!」 「はぁ…。だったらその『ナナミちゃんがお見舞いに来ましたよ』ってのはやめろって。 子供じゃないんだからよ…。聞いてるこっちが恥ずかしいぜまったく…。」 「ふーんだ!…別にいいじゃん、あたしの勝手ー! …あれ、そういえば雅浩のお母さんは?」 「あぁ、さっきまでずっとそばにいたんだけどよ、家のことが心配になって帰ったよ。 まったく…別に手伝ってもらわなくっても大抵のことはできるってんのに…。」 「まー、そういわないの! 身体ボロボロなんでしょ? 変に無理するともーっと悪くなるよ?」 「そうだぞ。まだ骨もくっついてないんだろ?下手に動くと入院期間がさらに長くなる。」 「あーもー、うるせーな…。分かった、分かったって!」 「しかし… よくそんな怪我で済んだもんだなぁ、雅浩。 あの炎の中二階まで行ったんだろ?」 「それに、火災の後に見つかった一組の子、みんな口を揃えて『ヘルメットかぶった奴に上から放り投げられた』 って怒ってたもん。…それをやったの、雅浩でしょ?」 「う…(あいつら…せっかく助けてやったのにそんな事言ってやがったのか)。あ、あぁ…。 ちょうど通過地点にいたんで…な。」  雅浩は少しムッとしつつも、こう言いました。 「そ、そうなのか…。何でそんなにさらっと言えるんだよ…。 なぁ、お前…一体どうなっちまったんだよ。 …普通あんな炎の中にいたらとっくに死んでるんじゃ…。」 「う、うぅむ…。そうだなー。確かにここ最近身体が丈夫になってきたなーってのは自分でも感じるけどよ。」 「いやいや、そういうレベルじゃないだろうが! …あんな燃えに燃えている場所で、 しかも『校舎の三階から落ちてきて』無事なのかって聞いてるんだよ!」 「それはー…。 …!?って何ィ!?『校舎の三階から落ちてきた』ぁ? …オレがか!?」 「えっ、知らないの!? …消防署の人から聞いた話だと、『屋上からヘルメットかぶった子が落ちてきた』 …って言ってたから、てっきり自分から飛び降りたもんだと…。」 「そんなはずはない! …オレはー…。」  そこまで言うと、雅浩は黙ってしまいました。 屋上の上で倒れていたのは、事件の元凶の篝火と戦っていたからです。 しかしそこで起こった数々の出来事をこの二人に話して信用してもらえるだろうか…? 雅浩はそこで口をつぐんで考えました。 「…?どしたの雅浩。 …何かあったの?屋上で。」 「…あ、いや…何でもない。 …忘れてくれや。」 「? 何だよ、変に口ごもっちゃって。 …なんかあったのか?」 「…何でもねぇ。」 「いーや!何かあっただろ!その口ごもり方は〜。」 「…なんでもないっつってるだろ…。黙れよ…。」  雅浩は詳しく聞かれるのを嫌がり、少し怒ったような口調で五十嵐を黙らせました。 「な、何だよ!ちょっと聞いただけじゃん! 分かった、分かったって…。」 「…あ、そろそろ時間だ。 じゃああたし達は帰るね。」 「そーかい。 …まったくもー、さっさと帰れよな。」 「何だよその言い方! …まるで僕らが邪魔者扱いじゃないか!」 「実際邪魔にしかなってねぇっての。」 「むー! …そんな事いうならもう来て上げないよ! …『ヨロシク仮面』も録画してあげないから!」 「そ、そ、そ…それは困る! わ、悪かった、悪かったよナナミさん!」 「うむ!分かればよろしーい!」 (雅浩…わざわざナナミにそんな事頼んでたのか…?) 「じゃね、雅浩〜♪」 「学校が始まる前には怪我治せよなー。」 「おう。 …ありがとな。」  雅浩は、二人の帰り際に、小声でこう言いました。 「…まったく、雅浩も素直じゃないよねー。 最後に一言『ありがと』って言っただけだもん。」 「ははは。…そういう奴だからね、雅浩はさ。」 「じゃ、僕はこっちだから。 じゃーね、ナナミ。」 「うん。 …あ、いっけなーい! ヨロシク仮面の録画予約するの忘れてた! 一話でも撮りのがすと雅浩怒るからなぁ…。 早く帰らないと… きゃっ!」  と、急いで走ったナナミは、誰かとぶつかって転んでしまいました。 どうやらぶつかった相手は、60代ぐらいの痩せ型のはげたおじいさんのようです。 「あ、あ、あー…す、すみません。急いでて…。」 「ほっほっほ。 …元気な娘さんじゃのぅ。 …すまんが、少し道を聞いてよいかのー?」 「は、はぁ…どこですか?」 「この辺に『白神総合病院』という病院があるはずなんじゃが…?知らぬかのぉ?」 「し、しらがみそうごうびょういんですか? それなら、そこの角を左に曲がってすぐのところに。」 「ふむ…そうか。すまんのぉ、急いでいる時に。」 「あ、いえいえ。 …ではっ!」  そういうと、ナナミは猛ダッシュで走っていってしまいました。 「あそこ…じゃな。 (さぁて、『あの子』はどうなっておるじゃろうか…?)」
…ナナミと五十嵐が帰ったあと、雅浩はベッドの上に寝転がって天井を見て、一人物思いにふけっていました。 「…しっかりオレがこうして入院しているのも、あの炎の中生きていられるのも、ひとえにこの『ヘルメット』のおかげであり、 ヘルメットのせい…なんだろうな。まったく、奇妙な話だぜ。 このヘルメット…一体何なんだ?かぶれば力は増して銃弾を受けても、あんな火の中にいても全然平気、 さらには傷はたちまち回復のオマケつきときたもんだ(はずせばそれまでのダメージが全て返ってくるし、 回復できるっつってもそれに使う体力がハンパじゃないのが玉にキズだが)。 なんなんだよこれは…。じいちゃんは一体オレに何を送ったんだ?  …それに、あの『篝火』とかいう教師もそうだ。アイツは自分のことを『改造人間』とか言っていやがった。 普通に考えたら何てバカな事言ってるんだって思いそうだが…あの『殴った感触』、 何より『自分に炎をまとわせる』なんてことが普通の人間に出来るわけがねぇ。 いったい…この町で何が起こっていると言うんだよ…。」 雅浩はそんなことを考えながらあおむけになって、枕に顔をうずめました。 そしてしばらくしてから、ベッドの下に置いてあるヘルメットの入ったサブバッグに手を伸ばそうとしましたが… 「…んっ!んん〜…! …ちくしょう!この点滴が邪魔でバッグまで手が届かん! ちくしょう!誰か…誰か来てくれー…。」 と、雅浩がサブバッグをとろうと悪戦苦闘しているその頃…病院の一階では…。 「な、ななな…なんなんですかあなた達は!?」 「……動くな。 そして貴様らに話すことなど何もない。…128号、この病院で間違いはないな?」 「はい。…ここの病院に入院している、と情報部から連絡が回っております。」  病院の一階では黒いトレンチコートを羽織り、テンガロンハットを被った 十数人の男達が強引に入り込んで病院内を占拠していました。 既に何人かの病院の職員が抵抗し、やられたのか、5人ほどボロボロになって仰向けに倒れています。 「…よし。皆手分けして、この病院内から『ヘルメットの男』を探し出せ!…殺すのだ! 敵はあのお方すら殺ったほどの強者だ、一人で戦おうとせず見つけたらすぐさま仲間に連絡しろ! そしてェ!きぃさまァ!!」 「ひっ、ひいいい!!」  その男の内の一人が、受付カウンター内にいる女性…ではなく、 その女性が握ろうとした電話を小型の銃で打ち抜きました。  …電話はぷすぷすと焦げ臭いニオイを出しながらけむりをはいています。 「今、警察に電話をしようとしたな? …我らにとって警察など別に屁でもないが、 あまり我々の存在を外部に知られるのはマズイのでな…。よし、この病院の電源装置をシャットアウトしろ!」 「なッ…!そ、そんな事をしたら患者達の命が…!!」 「んん?貴様、まだ自身の立場が分かっていないようだな。 …我らは別にお前達を殺す気はない。 だが…お前達の返答次第では…、首の一つや二つは飛ぶだろうなぁ…。ックククク…。 死にたくないなら、ここの患者のことよりもまずは自分自身の命のことを考えるべきじゃあないか?」 「……!!」  それを聞いた瞬間、異を唱えていた病院職員は押し黙ってしまいました。 この男達からなにか”邪悪なオーラ”を感じとり、その恐ろしさにもう言葉も出ないのでしょう。 「隊長、たった今この病院の電源装置を破壊しました。これでもう通信機器も使えますまい。」 「そうか…。ご苦労。では各員、早速捜索に当たれ!!」 「了解!!」
…ちょうどこんな騒動が起きる数分前。雅浩はヘルメットを取るのをやめ、テレビを観ていました。 ちょっと音量が大きかったのか、隣のベッドの子が雅浩に文句を言ってきました。 その子は雅浩よりも少し小さく、緑色のバンダナを頭に巻いた女の子でした。 「あのー、ちょっとテレビの音がうるさいですっ。 …他の患者さんのことも考えてください!」 「え!?あ、あぁ…悪い悪い。 ちょっと音量下げるからさー(他の人って、この病室オレとお前しかいないじゃん)。」 「まったく〜…ルールを守れない人は人間としてダメですよー。」 「…はいはい。」  それから少しして、その子が雅浩に少し恐縮しながらもう一度声をかけてきました。 「ね、ねぇ…おにいちゃん、ちょっとヒマ、ですか?」 「あ?…こんな所にいるんだから、ヒマには違いねぇが、何だ?」 「じゃ、じゃあ…ちょっと『神経衰弱』でもやらないですか?わたし、テレビカード使い切っちゃっててヒマだったから…。」 「お?神経衰弱か。…ま、ヒマツブシにはいいかもなー。」 「い、いいんですか?ありがとー!この病室内では誰もやってくれる人がいなかったから…。 …あ、あれ?」  …ちょうどその時、病院内の電気が全て消えてしまいました。それはまぎれもなく下の集団の仕業です。 「な、何だよ!いきなりテレビが消えやがった!…と、とりあえずテレビカードを… んん!? あ、あぁー! て、テレビカードが出てこない!何だ!?どうなってやがる!?」 「…それは停電して機械が止まってるからでしょ。」  テレビカードが出てこなくなって困惑する雅浩に、バンダナの女の子は冷ややかにつっこみます。 「で、でも大変ですよこれ!…たぶんこの病院の電気が全部止まってるんだと思います! このまんま電気が止まってたら、ここの患者さんたちは…!」  そしてその瞬間、何者かが病室のドアを開けて強引に中へと侵入してきました。 「よーし、貴様ら動くなよ! …少しでも妙なマネしたら容赦なく頚動脈をかっ切るぞ!」 「ハァ?何だお前。狂ったファッションセンスしやがって!…ここは病室だぞ?もー少し静かに…。」 「…黙れ、このクソガキ。」 「あぁ?誰がくそが… ぐぇぇえっ!!」  男は、雅浩のベッドのそばに置いてあったサブバッグをつかんで雅浩に投げつけました。 「ふむ、ここもハズレか…。しかし部隊長もずいぶんと適当な事を言う。 …ヘルメット、としか手がかりのない 人間をどうやって探せとい… …んん!?」 …と、男が病室内を見回していたその時、突然病院内の明かりがまた点き始めました。 おそらく通常の電源装置が使えなくなったため、自家発電装置が動き出したのでしょう。 「…!電気が点いた!? おのれ、下の部隊は何をやっておるか!」 「おいお前…。何処向いてやがるんだ、あぁ?」 「あぁ…?何だ、今私はいそが…何!?」 雅浩がヘルメットをかぶって立ち上がっていました。 おそらく、さっきぶつけられたサブバッグからヘルメットを取り出したのでしょう。  雅浩は立ち上がった後動くのに邪魔な点滴の注射を勢いよく腕から引っこ抜きました。…雅浩の腕からどくどくと血が流れます。 「おうおう、ずいぶんと過激なマネしてくれるじゃないの、ファッションセンス狂ってるわりにはよォ! でもまぁ、そのおかげで助かったぜ。…オレが手を伸ばしても届かなかったバッグをわざわざ渡してくれるとはなぁ! さぁて、さっきアンタオレのことなんつった?…『くそがき』っつたよなァ!」  ヘルメットをかぶった途端、いきなり謎の男に罵声を飛ばす雅浩。 そして、その様子を横目で見ていたバンダナの女の子は、雅浩の体にある異変が起きているのに気がつきました。 (あ、あれ…?おにいちゃん、さっき点滴を引き抜いて、あれだけ血がどくどく出てたのに…。 もう…『血が止まってる』!それにヤケドで少しボロボロだった顔も、すっかり元通り!なんで?なんで…。) 「…(さっきまで立つことも出来なかったガキがヘルメットをかぶった途端に…! コイツが…標的ターゲット!) 見つけたぞ、よし、早速部隊長に連絡を… …!?」 「てめー…どこ見てんだよ! ちょっと顔貸しな!」  雅浩は謎の男が少しスキを見せたとき、すかさずベッドから飛んで、男の顔を思いっきり殴りつけました。 男はその衝撃で壁に激突し、かぶっていた帽子も落ちました。 今まで怖がっていたバンダナの子が雅浩に声をかけます。 「や、やったねおにいちゃん!(よくわからないけどとりあえず…)。…?ど、どうしたのおにいちゃん。 さっきから拳をじーっと見たまま動かないで…。」 「……こ、この『殴った感触』…!忘れたくても忘れられないこの感触・・・・はッ!お前…まさか…ッツ!」  雅浩が震える声でそこまで言った辺りで、男が起き上がってきました。しかし、その男は… 顔全体を鉄仮面のようなもので覆い、口の辺りにはガスマスクのようなものがついており、 目の代わりをするのであろう、赤色のゴーグルのような形状のような機械が怪しく光っており、 そして何より…殴られたのが原因か、男の首は60度ぐらいの角度にひんまがっていたからです。 雅浩も、バンダナの女の子も”これは普通の人間じゃない”と直感で感じ取りました。 「痛いねぇ…。首が…曲がってしまったじゃぁないか…。 よいしょっ…とォ。」 「ひぃ、ひいいいやああああああ…!」 男は曲がった首をぐいと引っ張り、ギリギリと機械のような音を発しつつ元の状態に戻しました。 バンダナの女の子はその様子を見て思わず叫んでしまいました。そして雅浩は少し間を置いて、男に質問をしました。 「お前…ただのファッションセンス狂い野郎じゃねぇな…。改造人間サイボーグって奴だな!そうだろう!?」 「ほほぉ…さすがに『バーストマン』様を殺しただけのことはあるな…。いかにも。」 「(バーストマン?…あの数学教師のことか?)…な、何なんだよテメェらは! 何がしたくてそんなカッコしてんだコラ!」 「か、格好…! あー、おほん…決まっている。将来『我が組織』の敵となるであろう存在を消しに来たのだ!」 「『我が組織』だぁ!?(そういえば篝火の野郎もそんなこと言ってたな…)だが、その任務は失敗だな! お前なんかじゃこのオレは殺せねぇ。お前はアイツ(篝火)ほど強くはねぇ…そうだろう?」 「ッククク…確かに。私はあの方のような特別な能力は持ち合わせていない。だが…『複数人』を相手では…どうかな?」 「ふ、複数ぅ!?どういうことだ!」 「…さっき貴様に殴られた時に、こっそりと仲間に連絡を取っていたのだよ! 仲間もこの病院内で貴様を探している。来るのに時間はかからないだろう。 確かに私は貴様のような力もなければ、バーストマン様のような能力もない。 …が、我らには『人数』がある! いくら弱いといえど、我らとて普通の人間の5倍ぐらいの力はある。病み上がりの貴様が勝てるかな…? 『人海戦術』という言葉はご存知かね? …ッ−クックックッ!!」 「や、やろう…(たしかに、こんなのがたくさん来たら…ヤバイ、かもな…。)」 「お、おにいちゃん!だ、大丈夫なのっ!?」 「ンな事オレに聞くんじゃねぇ!怖かったらそのへんでうずくまってろ!」 「そ、そんな事言ったってぇ…。」  一連の会話を聞いて怖くなったバンダナの女の子は、心配になって雅浩に問いただしましたが、 雅浩は人のことなどどこ吹く風というように軽くあしらってしまいました。  …そしてそんな事を話していると、部屋の外から足音が聞こえてきました。 その足音はコツ…コツ、と少しづつ忍び寄るようにこの病室へと向かってきています。 足音の音からして…やってきたのは一人でしょうか。 「おぉ、話をすれば…来たようだな。」 (き、来やがった…か!) 「こ…こわいよぉ…。」 「標的はここだ!さぁ、早… …んんッ!?」  …仲間が来たと思い、男は病室のドアを開けたのですが、…その瞬間男は言葉を失いました。 部屋の外の廊下にいたのは…。 「おぉ、これはこれは。…こんばんは。」 「あ、いや…こんばんは。 …って、何だ貴様…ぐえぇっ!?」  そこにいたのは、さっきナナミに道を聞いていたおじいさんでした。 おじいさんは男に軽く挨拶したあと、すぐさま男にパンチを叩きこみました。 相当な威力だったのか、男は窓際の壁まで吹っ飛んでしまいました…。 「貴様ぁ…な、何者ッ!? う、うげあ…あ!」 「あ…あぁあ…!」 「ほっほっほ。…ワシの名は頑道(ガンドー)。頑道 恭介じゃ。 …まぁ、お主は特に知る必要もないじゃろうが…な。」  おじいさんは”ガンドー”と名乗りました。 雅浩はそんな頑道じいさんを見て放心しています。 …そして、おじいさんはそのまま雅浩の方を向いて話しかけます。 「ふむぅ…。お主が…”柏木 雅浩”君じゃな。…怪我の具合はどうかの?」 「な、何だじじい!やるってのか!?あ、相手になるぞゴルァ!!」  錯乱している上にいきなり話しかけられた雅浩はちょっと混乱して、おじいさんを敵だと思い込み、とっさに身構えました。 「まぁ、待て待て。 …ワシは君の味方じゃ、別にお主に危害を加える気はない。」  おじいさんはあわてる雅浩にこういってなだめさせようとしました。が…興奮した雅浩はもう止まりそうにありません。 「こんの野郎!そんな事いってオレをごまかす気だろう!?…そんな芝居でオレをだませると思うなよ!この…」  雅浩は興奮したままおじいさんに殴りかかりました。…が、おじいさんは特にたじろぐこともなく… 「ふぅむ…。 ちょいと、落ち着け!」 「う、ぐえぇぇッ!」 「お、おにいちゃん!?(な、投げ飛ばされちゃった…!)」  おじいさんは突っ込んできた雅浩のそでと襟をつかみ、そのまま一本背負いをきめてしまいました。 投げられた雅浩は何が何だか分からないみたいですが、とりあえず落ち着いたようです。 「(こ、このオレが投げられた?しかもこんなじじいに!) …う、あ〜…イテテ。な、何なんだアンタは! そこの変なのの仲間か!?」 「だから…ワシはお主の敵ではない、とさっきから言っておるじゃろう。…少しは人の話を聞くんじゃ。」 「そ、そうかい…で、何の用だってんだよじじい。 オレはあんたみたいなじじいは知らねぇぞ?」 「ま、そりゃあお主はワシのことなど知らんじゃろうな。…じゃが、ワシはお主のことは知っておるぞ。」 「…?どういうことだよ?」 「それは…お主が『昆布中学屋上で改造人間と戦い終わった後、お主を屋上からほおリ投げた』のは 何を隠そうこのワシじゃからな。」 「へぇ〜、そ…って何ィイイイ!? ど、どういうことだ!」 「いや、実はな。…お主があの改造人間を殺ってからすぐ、ワシは屋上に来ておったのじゃよ。 改造人間を白日の下にさらすのは『ウチの協会』ではあまり好ましくない…ことじゃからな。」 「『ウチの協会』?…なんだそりゃ。」 「おぉ、まだ説明しておらんかった。それは…」  と、そこまで話し込んでいた時、突然彼らの後ろから、大声で話しかけてくる輩がいました。 それはもちろん…。 「き、貴様ラ…!まだまダ甘いナ!いくラ私が弱イと言えドこの程度じャ死なンヨ…!」 「やろう、まだ生きて…! うぅっ!!」 「よぉーやく気づいたカ? 貴様ラがベラベラとおシャべりしてル間にこの娘ハ捕まえさせテ貰っタ!」 「うわーん!こわいよー!!」  男は、雅浩と頑道が話している最中に、バンダナの女の子を人質にとり、女の子に銃をつきつけていました。 普通ならすぐにでもぶちのめしたい所なのですが、人質をとられている以上二人にはどうすることもできません。 「ぬぅ…詰めが甘かったようじゃ…予想以上にしぶといのう…。」 「おいじじい!アンタと話してたせいで、女の子を人質にとられたじゃねぇか!どーすんだよ!?」 「何故そこでワシに怒るのじゃ?そういうお主こそ悪いのでは…。」 「なんだとーッ!!」 「あノ…チョッと、ネぇ…私を無視するンじゃナいゾ貴様ラぁー!」 「あぁ!?今それどころじゃねぇんだよ!勝手にやってろ!」 「そ、そんなー!ひどいよぉ!助けてぇー!!」 「黙ってろ!お前なんてお呼びじゃねぇんだっつーの!」 「うわああああああん!ひどい、ひどいよー!」  頭に血が上った雅浩は、人質を取られているというのに、男を無視して頑道に食って掛かっています。 しかもあまつさえその人質にも当り散らしています。  その様子を見るにみかねた男は… 「もウイイ!人質ハ……う、ウグォエェッ!?」 「…んん?なんだぁ…?」  …男が人質を今まさに殺そうとした瞬間、突然病室の外から、鉄球のようなものがドアを突き抜けて飛んできて、 男の頭を弾き飛ばしました。…男は完全に機能を停止したのか、ピクッとも動かなくなりました。 …それから一呼吸置いたあたりで、誰かが病室のドアを勢いよく開けました…。 「頑道隊長ッ!…この病院内の改造兵士ソルジャーは全て殲滅したであります!」 「あー…、む。…ご苦労じゃったのぉ、逆刃(さかば)。」 「はっ!」  入ってきたのは、”逆刃”と呼ばれた、軍服を着た少年でした。…背格好から見ると、雅浩よりも少し年上でしょうか。 雅浩よりも少し長髪で、瞳の色はややブルー寄り。雅浩よりは…少し男前のようです。 逆刃は、頑道に状況の報告をすると、そのまま雅浩の方へと向き直り…いきなり雅浩の腹を思いっきり殴りました。 「う、ぐえぇえっ! て、てめッ、何すんだっ!!」 「…黙れッ!敵を目前にしてスキを見せ、人質までとられ、その上その人質にまで八つ当たりとは何事だ!」 「え!?あ、あぁ…。って、別にいいだろ!アイツはもう倒したんだし! …うげっ!!」  逆刃は、そう弁解する雅浩に蹴りをいれました。 「…なーにが『倒したからいいじゃーん』だ!…アレはオレが倒したからよかったものの、 あのままでは人質が大変な事になるくらい、誰にだって予想がついただろう!…ヒーロー協会の恥さらしめが!! …隊長ッ!まさかあなたがついていながらこんなことになるとは…!」 「んん、あぁ…。すまぬな。…これからは気をつけるよ。」 「な…何だとォオオ!黙って聞いてりゃ勝手なことをしゃあしゃあと…! あんな奴たとえ人質をとられようがオレが倒せたっつーんだよ!…生意気な事ぬかしやがって、ぶっ飛ばしてや…!」  逆刃の発言に、とうとう雅浩も頭にきたのか、逆刃に殴りかかりました。 …が、病み上がりの上、さまざまキズの回復に体力のほとんどを使ってしまったため、 雅浩はそのまま床に崩れ落ちてしました。 「う…うぅ。(くそっ…もう疲れて体が動かん…!)」  そんな雅浩を、逆刃は足で踏みつけ、こう言いました。 「ふん、さんざん文句たれておいてその様か?情けない奴め。…それでも『ヒーロー協会』の隊員か!」 「ひ…『ヒーローきょうかい』…!?なんだそりゃあ…。」 「んん!?…何を言う。お前は…。」 「いやいや、彼が知らんのも無理はないのじゃ、逆刃。…彼にはまだ何も説明しておらん。 ふむぅ…、その様子じゃ今説明して無駄じゃろうな。よし、とりあえず今日は出直そう。説明は明日でもいいじゃろ。 よし、帰るぞ、逆刃。」 「ははっ!!…任務終了、ということでありますな?」 「うむ。…とりあえず戻るとしようか。」 「はっ!しかし、隊長…。」  逆刃は雅浩を踏みつけるのをやめ、頑道の方に向き直り、ビシッと敬礼しました。そして頑道にこう耳うちしました。 それは疲れて立つ事もできない雅浩でも十分聴こえるほどの声でした。 「…本当にあんな奴をウチの隊に入れるつもりなのですか?…ハッキリ言って、アイツは私よりも弱い・・というのに。」  頑道はその問いに何も答えませんでした。…そしてそのまま二人は病室を出ようとドアノブに手をかけました。 そのまま地面に倒れたままの雅浩が声を上げたのはその時でした。 「ま…待ちやがれ!このド低脳野郎!!今何つった…?今!何つったぁ…!」 「聴こえていたか…?じゃあはっきりと言ってやる、『お前は弱い・・・・・』と言ったのだ。」 「て、てめぇ…!言っていいことと悪いことがあんぞ…。オレ、柄にもなくプッツンきちまったからなぁ〜…!」 「…何だと?どういうことだ?」 「今はッ、確かに疲れちまってろくに動くことも出来やしねぇ…だから、明日だ!明日、『コトブキ市立自然公園』に来い! そこでオトシマエつけてやる!…どっちが弱いかハッキリさせてやろうじゃねェか…!!」  雅浩は時折ゼーゼー言いつつも、逆刃を挑発し、戦えと言いました。…それに対して、逆刃は…。 「隊長。明日はわざわざここに来る必要はない・・・・・・・・・・ようですよ。 手向かうようなら…骨の2,3本は折ってしまっても構いませんね?」  逆刃がそういうと、頑道は少しニヤッと笑い…。 「よかろう。お主…『雅浩』と言ったな。…これ以上入院が長引くようになったとしても、 ワシは一切責任は取らんぞ、よいか?」 「…たりめーだ!こんなヤツなんぞにオレは負けん!…それにこれ以上こんな場所にいる気もねぇ!」 「ほぉ…、…じゃあ明日の朝…10時ぐらいにその公園に来ることにしよう。…よいな?」
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