琴吹 紬がなぜあんなキャラなのかを考えてみた

―――桜高・3F廊下 澪「…いやー、手伝ってもらってありがとうな、梓」 梓「いえいえ。わたしも好きでやってますから。……ん?」 澪「どうかしたのか?」 梓「今、下の階の廊下にムギ先輩が」 澪「ムギ?…おかしいな、唯と律と一緒に部室にいるはずなんだけど」 梓「それに何か…なんというか、泣いてませんか?」 澪「泣いてる?ニヤけてるじゃなくて?そんなことがあるのか?ムギ。ムギだぞ?」 唯「ムギちゃーん!待って、待って!ムギちゃぁーん!」 律「悪かった!あたしが悪かった!…何が悪かったかわかんないけど悪かった!」 梓「…先輩たちですね」 澪「あいつら…また何かやったのか。…こら、待て!待てって!」 唯「あ、澪ちゃん」 律「みおー!なんとかしてくれよぉ…ムギが、ムギがぁ…」 澪「あー、わかったわかった。だから制服に鼻水つけるのやめてって」 梓「…それで、何かあったんですか?っていうか、何をしたんですか?」 唯「むー!あずにゃんったらひどいなぁ!わたしたち、何もしてないよ?ねぇ?」 律「ずずず…え!?あぁ、うん。何もしてない」 澪「何もしてないのにムギが泣いて走っていくわけないだろ。何かなかったのか?」 唯「うぅん……、えっとねぇ…」 ―――十分前 軽音部部室 紬「ねぇ、唯ちゃん、りっちゃん。楽しみね〜、みんなでお買いもの」 唯「お買いもの?」 律「なにかあったっけ?」 紬「やぁねぇ、みんなで軽音部の備品を買いに行くって、先週から話してたじゃない」 唯「あぁ〜、あぁ!そう、そうだっけ!」 律「唯ー、お前はひどいやつだなー。”明日”の買い物のことを忘れるなんて」 紬「りっちゃん…お買いものは”あさって”って言ってたはずなんだけど」 律「あぇっ!?」 紬「二人とも…ひどい」 唯「ご、ごめんねムギちゃん。別にわたし、悪気があったわけじゃないよ」 律「あ、あたしもだぞ!でも。でもさぁ。…ひどいついでに、ひとつ。 …ごめん、ムギ!明後日は”隣のクラスの子”と約束があってさ。行けそうにない!」 唯「あさって?……………あぁ、あぁ!思い出した! わたし、その日は中学の友達と久しぶりに会う約束してたんだった!わすれてたぁ……。 ムギちゃん……えと、あの、その…ごめん」 ―――現在時 3F廊下 澪「…それで?」 唯「それだけ」 律「それだけですよ。そのまま目に涙をぶわーって、ためて。で、出て行っちゃった」 梓「…珍しく先輩たちの言うとおり、わけがわかりませんね」 澪「……約束をすっぽかされたことに腹を立てたってのか?あのムギが?」 梓「ムギ先輩に限って、そんな」 唯「だよね!だよね!あずにゃん!わたしたち、何も悪いことしてないよね」 律「あたしも」 梓「先輩たちは黙っててください」 唯・律「むぎゅう」 澪「でも、このままほおっておけない。探しにいかなくちゃ。梓、一緒に来てくれないか」 梓「了解です」 唯「澪ちゃん、わたしも行くよ」 律「ずるいぞ唯!あたしだって」 澪「お前たちは部室で待ってろ。…今はち合わせして、またこじれでもしたらどうするんだ」 唯・律「うぐぅ…」 澪「行くぞ梓、まだ遠くには行ってないはずだからな」 ―――街中 梓「でも…信じられませんね、ムギ先輩が”いきなり”、”何も言わずに”出て行くなんて」 澪「唯に律の説明だしなぁ、色々と抜けてる部分はあるんだろうけど。 それにしたっておかしいのは確かだ。両方合わせて本人の口から直接聞いてみなきゃな」 梓「はい。…じゃあ、わたし、南通りの方を探してみます」 澪「頼んだぞ」 ――街はずれ・河原 澪「うぅ…手がかりもなく、やみくもじゃあ見つからない、か…。 もしかしたらもう、家に帰ってるかもしれないしなぁ…、リムジ○とかそういうの呼んで。 ……考えたくはないけど。………ん?あれは…ムギ?」 紬「…………」 澪「むーぎっ。ムギっ。……??」 紬「……………ひゃっ!」 澪「おーい、ムギー」 紬「あ、あ…あぁ、澪ちゃん。びっくりしたぁ、いきなり目の前がまっくらで、ひえひえで…」 澪「ごめんごめん。…でも、どうしたんだ?唯たちから聞いたぞ? 何にも言わずに泣いて走って、どっかに行っちゃうなんて…ムギらしくないじゃない」 紬「……………」 澪「そう…か。ま、見つかってよかったよ。唯たちも心配してるし、とりあえず連絡を」 紬「まって!」  唯たちに連絡を取ろうと携帯電話のボタンを押そうとした澪。 紬は彼女の携帯電話を自身の手の甲で覆いかぶせるようにしてそれをやめさせる。 澪「な、なんだよいきなり」 紬「…ごめんなさい。今は…待って」 澪「なんで?」 紬「…………」 澪「ここまで来てだんまりか?でも、言ってくれなきゃ誰も分かってくれないぞ。 一応二人から事情は聞いてる。力になりたいんだ。…な?」 紬「その……えと…、うん。………はずかしい、から」 澪「…はずかしい?」 紬「二人から…話を、聞いてくれたのよね?…わけがわからなかったでしょ?私。 ……別に、ね。唯ちゃんやりっちゃんが約束をすっぽかしたことなんて、どうでもよかったの。 お買いものなら、また別の日に行けば済むことだったし」 澪「じゃあ、なんで」 紬「二人が…、ふたりが、その日に私の知らない子と遊ぶって聞いて…、 胸のあたりがきゅうっと締め付けられて、なんだかとっても嫌な気分になったの」 澪「恋……なわきゃないか。”独占欲”ってやつ?」 紬「そうなのかも、しれない。それに、怖くなった。ふたりが…、 いや、澪ちゃんや梓ちゃんも、わたしから離れちゃうんじゃないかって。 ……おかしいわよね。そんなことで、こんなキモチになっちゃうなんて」 澪「今さらムギの心のことをどうこういったってしょうがないし、わたしは気にしないよ。 でも、意外だな。ムギが一番そういうのに強そうだって思ってたんだけど」 紬「わかってない。…私のこと、全然分かってないわ澪ちゃん。 私ね、軽音部のみんなと出会うまで”ともだち”らしい友達、ひとりもいなかったの」 澪「えっ……。ま、またまたぁ…ムギに限ってそんな」 紬「本当のことよ。そりゃあ、人並みに受け答えはするし、みんな嫌いだってわけじゃないわ。 でも…昔から、昔からそうだった。私とする話はみんな、私の家のことばかり。 男の子や女の子から告白されたこともあったわ。でも、それも家のことがらみ。 そういうこともあってか、避けられることだってたくさんあった。 みんな、私のことを見てくれない。私のことを話してくれない。こわくてこわくてたまらないの。 …だから、軽音部のみんなが”ふつうに”接してくれることが何よりもうれしかった。 だから、だからこそ!…みんなが、軽音部のみんなが…私の知らないところに行ってしまうのは…」 澪「…許せない、ってことか?」 紬「…………」 澪「それで、そんな嫉妬にくるった自分が恥ずかしくなって逃げ出した…そういうこと、なんだな」 紬「……嫌ってもらったってかまわないわ。…なんだか、なんだかもう、自分が許せないもの」 澪「そんな、別にわたしは…」 紬「嘘!うそよ!嘘でしょ!?ほんとは澪ちゃんだって私のこと、 家のことを鼻にかけた嫌な子だって思ってるんでしょう!?」 澪「おいムギ、お前…」 紬「同情しないで!分かったような口聞かないで!何も知らないくせに!何も分かろうとしないくせに!」 澪「あぁもう…落ち着け!落ち着けって!」 べちこーん。 紬「………あぁ、あ」 澪「ムギがどれだけ軽音部のみんなが大好きなのか、ムギが昔どんなことされてたのかはだいたいわかった。 お前がここにいたい気持ちもよく分かる。けど、今は落ち着いて、わたしの話を聞いてくれないか?」 紬「澪ちゃんの…はなし?」 澪「”人は一人きりでは生きていけない”。よく聞く言葉だろ?この言葉自体はそうだと思うし、 わたしも何度か、この言葉の持つ意味に助けられてきたし」 紬「りっちゃんのこと?」 澪「そ、そう……って!あぁもう!話の腰を折るなよぉ。…続けるぞ。 でも、”人は一人きりでは生きていけない”って言葉には、続きがあるんじゃないかって、わたしは思うんだ」 紬「…つづき?」 澪「そう。わたしはその先、こう続いていくんじゃないかと思ってる。 ”でも、ずっと一緒にはいられない、なれない”って、さ」 紬「…………」 澪「…意味ありきで分かりにくかった、か?…なんというか、その。 人は一人だけじゃ楽しいことも嬉しいことも、辛いことも悲しいことも分からない。 自分の隣に誰かいるからこそ、生きてるって楽しい、って思うだろ? だからこそ、こんな言葉が生まれたんだと思う。 でも、それで終わりってわけじゃない。わたしたちはひとりひとり、”違う”人間なんだ。 違うからこそ、一緒にいて楽しいと思えるけれども、ずっと一緒にはいられない。 家庭の事情だとか、夢とか、考えの違いとか…、人によって理由はいろいろあるけど、 そういうのを全部削ぎ落して考えてみると、そう落ち着くと思わないか?」 紬「う…うん」 澪「わたしたち軽音部だって今はこうして仲良くやってるけど、大学に入学するとなるとどうだ? それも終わって、就職するとなるとどうだ?わたしたちはみんな違う道を行って、 そこでまた新しい人たちと仲良くなる。それは自然なことだし、止めることなんてできない。 それがさ、自分とは”違う”人たちの中で生きる、ってことなんだから」 紬「でも…私は……むぐぐ」 澪「こらこら。…ここまできたらわたしの言いたいこと、いい加減分かってきただろ? 怖がらないで。人にどう思われているのかばかり気にしないで。 少しでいい、ほんの少しで。…手を、手を伸ばしてみるの。わたしたち以外の人たちに向けて。 ムギがどんな子で、どんなことを考えてて、どんな気持ちなのかはわたしたちが知ってる。 だから、思う存分自分を出してみなよ。きっと、今よりも世界が広がって見えると思うから」 紬「澪ちゃん………。でも、わたしは」 澪「怖いか?…だろうな。わたしだってそうだったから」 紬「えっ?」 澪「えっ、ってことはないだろ。…自慢じゃないけど、わたしだって律がいなけりゃ、 今のムギみたいになってたかもしれない。…いや、もうなってたのかもしれない。 でも、わたしはここにいる。ムギの前にいるわたしは、お前から見てどう見える?」 紬「………かっこよくて、みんなから好かれてて、私の……あこがれ」 澪「そっか。……でも、わたしだって、ムギに憧れてるんだぞ?」 紬「えっ!?そんな、私なんて…」 澪「おしとやかで、いつもにこにこしてて、とってもかわいい。 わたしは、ムギみたいな女の子になりたいって、いつも思ってた。 だから、そんな子が近くにいるのがうれしいし、ちょっと悔しいな、って思う」 紬「…ありがとう、澪ちゃん。でも」 澪「嘘だとか、でまかせかって言いたいのか?わたし、こう見えても、嘘をつくのが苦手なんだ」 紬「そうね。その通り」 澪「ははは。…なぁ、ムギ。お前がさ、軽音部に入ったおかげで世界が変わったっていうのなら、 今度は自分の力で、自分の翼でその世界を飛び回ってみたらどうだ? きっと、今以上に素敵な景色が見られると思うからさ」 紬「みお…ちゃん」 澪「なぁに?」 紬「澪ちゃん……、それは〜ちょっと……はずかしくない?」 澪「えっ!?何が!何、何!?わたし、何かスベってたか?なぁ?なぁ!」 紬「ふふっ。…あははははっ」 澪「なんだか複雑だけど…、やっと笑ったな、ムギ」 紬「あ…っ!そうね、そうみたい。笑えた、笑えたわ、私。 …唯ちゃんとりっちゃんに謝ってこなきゃね」 澪「いいよ。そのままにしといたほうが、あいつらにとってもいい薬になるんじゃないか?」 紬「澪ちゃんって、意外といじわるなのね」 澪「ムギがやさしすぎるだけだって。ははは」 ―――数日後 教室 唯「なーんか、最近のムギちゃん。つれないなぁ」 律「あー。なんかつまんないよなぁ。他の子とばっかりたのしそーに」 唯「でもさ、でもさ。楽しそうだよねー。今までがそうだった、ってわけじゃないけど、 なんていうか…いきいきしてる?」 律「あたしも思った。最近のムギ、つやつやしてるよなぁ。お肌も眉毛も。 …ま、いっか。よぉーし唯!突撃だー」 唯「おうよー」 梓「…ムギ先輩、もう心配なさそうですね。一時はどうなるかと思いました」 澪「だな。…やっぱり、な」 梓「澪先輩、何か知ってたんですか?教えてくださいよー」 澪「ないしょ」 梓「あーずるいー。教えてくださいよー」 澪「だーめ」 唯「あっ!澪ちゃんが来てるよ」 律「何!?澪だって!?」 澪「!!!!」
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